「リズと青い鳥」感想?/初見で希美を受け付けられず、でも希美を好きになろうと噛み砕きすぎた話
【ネタバレ注意】
【この記事では、解釈の間違いが多々あります】
原作未読なのですが、1回目の鑑賞で傘木希美の心の内があまりに生々しく、鑑賞後に拒絶反応を起こして希美が嫌いになってしまいました。
本記事は、なんとか希美を理解するために、楽観的すぎる解釈をして希美を好きになろうとした、過去の遺物(黒歴史)です。
ですから、同じように希美に共感できず嫌いになってしまった人以外は、この先を読まないで下さい。
この文章を書き終えたことで、希美視点で鑑賞できるようになり、目的は達成されました。
現在、希美の苦悩や怖いほどの行動原理を含めて、この素晴らしい作品を理解しようとしているところです。
希美に共感できず嫌いになってしまっている人のみ、希美を好きになる手助けとして本記事が役に立てば幸いです。
↑の文言を後から足したので、下で同じ事をまた言っています。ご容赦を。
スクロールで読み飛ばしてください。
以下ネタバレです。
ーーーー
希美は理解というか共感するのが難しいなーと思います。
TV版2期は、少し問題はありそうだけど、明るくて真っ直ぐな性格をしている好印象なキャラクターでした。
しかし「リズと青い鳥」で掘り下げられた希美は、自分勝手に、無責任にみぞれを弄ぶ言動をして…
なんて酷い性格をした「嫌なヤツ」なんだろうという印象に変わってしまいました。
でも、それは希美を理解できていないからそう思うんだろうなーと感じていて…
ラストのシーン、笑いの意味はなんだろう?
ありがとうに込めた想いは?
「馬鹿馬鹿しくて笑った」とか「もうやめてくれ」の意味だけではどうにもストンと腑に落ちなくて。
それだけではどうしても希美が好きになれなくて。
希美を理解して好きになるには、複雑な心を、簡略化してもいいから、ひとつひとつ捉えることが必要だと思い、チープな表現になってしまうのを承知でこうして言葉に起こしました。
本当はこんなに単純ではないはずです。希美はもっとややこしくて複雑、人間的な生々しい感情が渦巻いている人物だと思います。
その上で希美を知る第一段階として、希美はどんな想いを抱えた人間なのか、なるべく希美に共感できるよう、好きになれるような解釈をしてみました。
ーーーー
みぞれが希美を待つ冒頭のシーン、希美に会いたがっているのは誰の目に見ても一目瞭然ですよね。
遠くに聞こえる足音だけで希美が来たと気が付くみぞれ。
その目は当然希美に向けられています。
では、希美は?
真っ直ぐ前を見てズシズシと歩く希美は、視界の中心にみぞれを捉えているでしょうか。
視界には入っているし、みぞれにも気が付いているけど、その目はもっと前を見ているようにも感じます。
もちろんみぞれを無視したりはしないし、青い鳥の羽に気が付いてみぞれに手渡したりしているけれど、希美の意識はきっと、大好きなフルートを吹ける音楽室へ向いているように感じます。
朝練に来ているんだから音楽室を目指すのは当然なんですが、階段の踊場で踊るようにUターンしたり、1段飛ばしで階段を駆け上がったり…
鍵を開けて音楽室に入る時も1回転、椅子に座って楽器を取り出すのも、音を出すのも希美が先。
みぞれと一緒にいて嬉しいのはもちろんですが、希美は純粋に、フルートを吹くことが、吹奏楽部で音楽をすることが今は何より嬉しいと思っているのではないでしょうか。
みぞれが「(希美と練習できて)嬉しい」と言った時、「私も自由曲が『リズと青い鳥』で嬉しい!この曲めっちゃ好きなんだ!」と会話が噛み合わないシーン。
わざとみぞれをはぐらかしている?
自然体の受け答えをして、表情も明るくて、わざと誤魔化しているようにはとても思えないんです。この段階では。
「コンクールが楽しみ」
「早く本番で吹きたい」
「『リズと青い鳥』って私たちになんか似てるな」
という発言もみぞれにイジワルを言っているのではなくて、希美の本心、嘘のない言葉なんだと思います。
イジワルに誤魔化したのは、
「希美は、その曲、好き?」に対して
「好き!めっちゃ好き!だって…」のあとの言葉を続けなかった事。
希美は、みぞれを大切に想っていて、でもそれを知られないよう内に秘めようとしているんです。
みぞれも表に出さないようにしているけど、強すぎる想いが溢れ出ちゃう。
「だって、この曲にはオーボエとフルートが掛け合う部分があるから」
希美は器用に隠そうとするんです。
今はこの絶妙な距離感をキープしたい。
だから、みぞれの髪が触れそうになったとき、みぞれがハグをしようとしたとき、ギリギリで回避する。
みぞれに触れたいけれど触れたら世界が変わってしまう。
でもそんな時間が永遠に続く訳でもなく…
みぞれが音大進学を薦められた事をきっかけに、希美はみぞれといつか別れが来ること、そして、自身が音楽を続けられなくなるかもしれないことを予感したのでしょう。
幸せな「今」の終わりが近づいている…
それは、希美が考えないようにしていた事。
希美もまた、まだ進路を決められずにいたんです。
咄嗟に「私もここ受けようかな…」と言ったのは、みぞれと一緒にいられて、音楽も続けられると思ったからですよね。
希美にとってもみぞれは特別な存在。執着さえしています。
この頃、あがた祭りやプールにみぞれを誘うシーンがあります。
誘う時は必ず一番最初にみぞれに声を掛けるんです。
みぞれが離れていってしまわないか確認するように。
みぞれは音大に行くと決意して、夏紀も優子も志望校を決めて模試のスケジュールも立ている。
友達がそれぞれ頑張っているのに、自分だけが置いていかれている感覚、焦り。
みぞれを繋ぎ止めておきたい、進路も決めなければいけない。
でもどうすれば良いのか分からなくて希美は更に焦る。
そんな状態で練習を重ねても息の合わない希美とみぞれ。
希美は自分の事でいっぱいいっぱい、悩んで混乱して、滝先生に指摘されたように、みぞれの音を聴く余裕がないんです。
みぞれもまた、希美が何を考えているのか分からなくて、拒否されることを怖れて、想いを伝えることもできなくて、窮屈な演奏になっているんです。
けれど、希美はたくさん悩んで苦しんで、自分の力で答えを出しました。
「私、本当に音大に行きたいのかな…」
これは無責任な言葉ではなくて、希美の決意なんです。
音大を受けると言っていれば音楽も続けられるし、みぞれと一緒にいる時間も作れるでしょう。
でも、それで本当にいいのか?と考えに考え、そして出した答えなんです。
当然それはみぞれを裏切る行為で… でも他に方法が思い付かなくて。
みぞれにどう接するべきかの悩みが続くのです。
一方でみぞれは新山先生のアドバイスで、大切な人に想いを伝えることが大事であることに気付きました。
いつか別れを切り出されても想いを伝える覚悟。
それが愛の証だから。
そして、第三楽章の演奏が始まります。
その演奏は周囲からはとてつもない演奏技術として受け止められます。
しかし希美にとっては技術の差だけでなく、向けられた強烈な想い、その覚悟に震えて演奏ができなくなったんです。
そっと音楽室を抜け出す希美
生物学室で夕焼けに照らされて何を思っていたのか…
自分の心の整理と、そして恐らく、次にみぞれに会ったときにかけるべき言葉を考えていたんだと思います。
けれど整理が付く前にみぞれが来てしまう。
なんとかエールを送ろうとして、でも「さっきの演奏凄かったね」なんて今は言えず、どうしてもひねくれた言い方になってしまう。
みぞれの声を遮るように「らしくない」発言を繰り返す希美は、感情がぐちゃぐちゃで…
心にも思ってないことを次から次へ話し続けてしまう希美自身も、聞かされるみぞれも二人とも辛いんです
「聞いて、希美」
「中学の時、希美が声をかけてくれなかったら今もひとりぼっちだった。音楽もやってない」
「ごめん、それ覚えてないわ」
「希美が私の全て」
「そんな、大げさな」
「大げさなんかじゃない」
「そんな大した人間じゃないよ、むしろ軽蔑されるべき」
ウソ 大嘘
本当は希美もみぞれと同じことを思っている
希美もみぞれが大好きで、同じ事を言いたいんです
希美だって「好き」と言いたい、でも言ってはいけない
みぞれは、人を惹き付け友達がたくさんいる希美がたまらなく大好きで眩しくて、でも希美自身はその魅力に気がついていなくて…
今の自分をみぞれよりも劣ってると卑下して、対等な関係にはなれないと思ってしまう。
「私も好き」と返す立場にはないと思っているから、後ろ手に腕を掴んでなんとか自制してるんです。
でも、ふだん口数の少ないみぞれが、必死に言葉を尽くして「好き」を伝えてくる。
次々にみぞれの想いが向けられるほど…同じようにみぞれのことが好きなのに、それを返してはいけない、耐えなければいけないと思っている希美にはただただ苦しくて…
そして、トドメの一撃が炸裂します。
愛してるのハグ
為す術なくみぞれに抱きつかれて…
希美は大混乱だったでしょう
みぞれは次は何をしてくる?
「希美の声が好き」
「希美の足音が好き」
「希美の髪が好き」
「希美の…」
「希美のフルートが好き」という言葉が出て来なかったのは、悲しくもあるけどホッとしてるような気もするんです。
あの演奏を聴かされたあとに「希美のフルートが好き」なんて言われたら… それは残酷すぎる言葉だと思います
一番言ってほしくて、でも言ってほしくない言葉が「希美のフルートが好き」で…
だからみぞれがその言葉を言うより先に、「みぞれのオーボエが好き」と言ったのではないでしょうか。
それは希美の敗北宣言
希美が放ったのは、刺されるくらいなら自分で自分の首を絞めるような、どうしようもなく辛い言葉で…
みぞれを自由にするための、愛ゆえの「さぁ、飛び立って」の意味だけではない重さがあるんです。
そして希美はこの教室で、二人にとってお互いが特別な存在であることを強烈に感じたんです。
でもそんなの最初から分かってたことだから、そのことに気付いて、可笑しくて嬉しくて悲しくて笑うんです。
笑い飛ばすにつれて、だんだんと本来の希美に戻って、「らしさ」を取り戻して、「ありがとう、ありがとう、ありがとう」と
みぞれが伝えてくれた想いに対する感謝
もう十分受け取ったからこれ以上は必要ないという断り
ちゃんと受け止められるから大丈夫という決意
最後のありがとうは、みぞれの目をしっかり見て言っています。
そして希美は身体の向きを変えて歩き始める…
これはこの瞬間から、今までと進む方向は変わるけど、着実に前を向いて歩き始めたという描写でしょう。
決意が固まり一般大学に進路を決め、希美は受験勉強と吹奏楽を両立させていきます。
誰よりもみぞれの飛躍を願い、譜面に「はばたけ!」と書き込んで。
そして「「本番、頑張ろう」」(ハッピーアイスクリーム!)と劇中で初めて想いが一致する…
二人にとってはまだ終わりではないけど、二人は必ずうまくやっていける、そう確信できる。
これはハッピーエンドの物語なんです。
ーーーー