「リズと青い鳥」感想 / 「みぞれのオーボエが好き」について

「希美の笑い声が好き」
「希美の話し方が好き」
「希美の足音が好き」
「希美の髪が好き」
「希美の、希美の全部...」

「みぞれのオーボエが好き」

この言葉の意味、どう捉えるか難しいです。
どんな思いで発したのか。
何を伝えたかったのか。
そのあとどうして笑い始めるのか。

この言葉は、込められた感情は、希美の複雑でごちゃごちゃな内面そのもので...

希美は誰よりも音楽が、フルートが、大好きで。
全国金賞を目指す北宇治のソロを吹く、申し分ない実力もあって。

だからこそ、
みぞれの才能に嫉妬して、
打ちのめされ敗北感を味わって、
これからもみぞれにはオーボエを続けてほしいという願い(呪い)があって。

同時に、ずっと続けてきた自分のフルートを褒めてほしくて、認めてほしくて。

あの演奏のあとに言われては堪らない、立ち直れなくなるかもしれない。
みぞれの今までの言葉がすべて嘘に聞こえてしまうかもしれない。
それでも、言ってほしかった。切望していた。気付いてほしかった。

それなのに、みぞれは「希美は特別、希美が話しかけてくれて嬉しかった。希美が、私の全部」と。
「あぁ、違う」
ほしい言葉じゃない。

「希美の笑い声が好き」
「希美の話し方が好き」…

ほしい言葉、貰いたくて。
もう少しで言ってくれそうで。
期待しちゃって。

「希美の足音が好き」
「希美の髪が好き」…

なのにやっぱりみぞれは自分のことしか言わなくて。

言ってくれないだろうな、きっと…


「希美の、希美の全部...」


「全部が好き」と言い終わる前に、このまま終わってしまう前に。
もうやめよう。

オーボエが好き。

あんなに言葉にしたのに分かり合えなくて。
今までずっと、お互い自分の話をしているだけで。
ほしい言葉に気付いてくれなくて。

でも、自分だってみぞれの気持ちを受け止めてあげらなくて。
自分のことでいっぱいいっぱいで。

次の言葉も出て来なくて。

二人そろってしょうがないなぁって。
可笑しくなって

笑っちゃう。

みぞれはズルいと思う。
ズルいよ。

でも好きだった。
なんだかんだ言ってあのオーボエが好きなんだ。

それだけは確かで、安心するんだ。


もう大丈夫だから、十分だから。
ありがとう。

    • -